Psychedelic,milio
こんな腐った世界、殺してしまおうかと思ったけれども、がこんな腐った世界でもわたしには必要なのですって何もかも解ったような口ぶりで言うからやめた。本当にそれでいいのかと思ってちらりと視線をに向けてみるけれども、何処吹く風でゆったりと紅茶を飲みながら子守唄のような優しい音楽に耳を傾けている。それを眺めているとなんだかの周りだけ時間が遅くなったかのように思えて、不安になったから少しだけに近付いた。ボクも、其処に在りたかったから。それを解っているのか、それともただ単にボクが近付いたことが面白かったのか、どちらにせよはくつくつと小さく笑ってまた紅茶を嚥下する。その様子が、酷く美しかった。 はボクの全てだ。は何時だって優しくて、正しく、凛として生きている。そんな彼女が羨ましくて、そして何よりも愛しい。彼女が愛するなら、ボクも愛する。彼女が嫌悪するなら、殺すまでだ。そうして生きている。は、ボクの生きるそもそもの理由だった。が生きているなら、ボクも生きる。ただ、それだけ。 「はボクのこと、ずっと愛してくれるよね?」 何時の間にかすぐ隣に居たの肩に、こつりと頭を乗せて目を閉じる。窓から入ってくる乾燥した風が頬を撫ぜて部屋に充満する優しい音楽と一つになり、再び窓から出て行く。不快ではなかった。 はこの手の質問に何時も返事をしない。それは言わなくてもわかっているでしょうという意思の表れなのか、それとも、ずっと愛してはくれないの、か。ただ微笑みを携えて、ゆっくりと遠くを見ながら僕の頭を撫で、そして、残った紅茶を飲み干す。それの繰り返しだ。言い淀んでいるのか、それともそれが答えなのか。それをボクは解りたいようで、解りたくは無かった。ボクはが大切で、ボクの世界はで構成されている。それを、聡明な彼女は知っているだろう。なのに言わないということは、きっと其処には、 「シンクさん。」 ボクは驚いて閉じていた瞳をぱちりと開いて彼女を見上げた。相変わらず微笑みながら遠くを見て、ボクの頭を撫でているけれども、ボクの名前を呼んだ事によって不変だったものが一気に終わりを告げる。がボクの頭を撫でていた手をゆっくりと下ろし、でも変わらず窓のずっとずっと向こう、遥か遠い場所を見つめ続けている。………いや、窓の向こうを見ているのではなくて、何処か全く違う場所を見ているのかもしれない。そう、例えばすぐ近くに存在する絶望、とか。 不意にすっと伸びてきたの手がさっきの風の様にボクの頬をゆっくりと撫ぜて、離れていった。優しいその手はそのもののように暖かくて、なんだか意味も無く泣きそうになる。泣くことなんて当の昔に忘れたけれども、だったら思い出させてくれるかもしれないとそう考えて、やはりボクにはが必要なのだと思った。だってボクは、こんなにもで満たされている。以外要らない。愛しい愛しい。ボクにはだけだよ、君だけが、ボクの全てだ。 薄く開いた口から空気が震え出る。ねえ、はボクのこと、ずっと愛してくれるよね?の口から言葉が出る前に、再びそう口に出すと未だに窓へ視線を投げ掛けているがすい、と上を見て、それと同時に滑らかに部屋を漂っていた優しい子守唄のような音楽が、終わった。 「直に、雨が降りますよ。」 |